大判例

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東京高等裁判所 平成8年(ネ)1998号 判決

控訴人

藤田善信

藤田富子

右両名訴訟代理人弁護士

大野金一

被控訴人

豊島美智恵

藤田泰信

右両名訴訟代理人弁護士

二井矢敏朗

被控訴人

藤田巌

右訴訟代理人弁護士

塚田斌

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは各自控訴人藤田善信に対し、原判決別紙物件目録一(一)ないし(五)記載の各土地について、平成三年一一月二三日遺贈を原因とする各持分移転登記手続をせよ。

三  被控訴人らは各自控訴人藤田富子に対し、原判決別紙物件目録三(一)ないし(三)記載の各土地について、平成三年一一月二三日遺贈を原因とする各持分移転登記手続をせよ。

四  控訴人藤田富子と被控訴人らとの間において、控訴人藤田富子が原判決別紙物件目録四(一)、(二)記載の各建物について、所有権を有することを確認する。

五  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人らは各自控訴人藤田善信に対し、原判決別紙物件目録一(一)ないし(五)記載の各土地について、真正な登記名義の回復を原因とする各持分移転登記手続をせよ。

3  被控訴人らは各自控訴人藤田富子に対し、原判決別紙物件目録三(一)ないし(三)記載の各土地について、真正な登記名義の回復を原因とする各持分移転登記手続をせよ。

4  控訴人藤田富子と被控訴人らとの間において、控訴人藤田富子が原判決別紙物件目録四(一)、(二)記載の各建物について、所有権を有することを確認する。

5  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件各控訴をいずれも棄却する。

第二  事案の概要及び証拠関係

一  本件事案の概要は、次のとおり付け加えるほか、原判決「事実及び理由」中「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これをここに引用する(ただし、原判決書別紙遺言目録本文六行目の「二女」を「三女」に改める。)。

1  原判決書二枚目裏五行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。

「4 本件一の(一)ないし(五)の各土地及び本件三の(一)ないし(三)の各土地には、いずれも水戸地方法務局谷田部出張所平成五年三月一一日受付第三〇八三号をもって平成三年一一月二三日相続を原因として、被控訴人らのために持分各六分の一ずつの所有権移転登記が経由されている。」

2  同三枚目表七行目の「よって、」の次に「破棄又は」を加え、一二行目冒頭から同裏二行目末尾までを削り、三行目の「(六)」を「(五)」に改める。

3  同三枚目裏末行の「一九〇三万円」を「一九〇七万円」に改め、同五枚目表一〇行目の「本件各建物」の次に「建築」を加える。

4  同五枚目裏二行目末尾の次に行を改め次のとおり加える。

「 本件遺言書が見当たらないのはたけ子が破ったものと考えられる。

被控訴人巌が「本件遺言書を破った」と発言したのは、腹立ちまぎれにしたもので真意ではない。」

二  証拠関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

第三  争点に対する判断

当裁判所は、控訴人らの本訴各請求はいずれも理由があると判断する。その理由は次のとおりである。

一  争点1について

1  事実認定等

次のとおり付け加えるほか、原判決書五枚目裏一一行目冒頭から同七枚目表二行目末尾までを引用する。

(一) 同五枚目裏一二行目の「三七、証人幸子、被告巌、原告富子、原告善信、被告美智恵」を「三七、四四ないし四八、証人幸子(原審)、被控訴人巌(原審)、控訴人富子(原審)、同善信(原審第一、二回)、被控訴人美智恵(原審)」に改める。

(二) 同六枚目表一行目末尾の次に行を改めて次のとおり加える。

「(一) たけ子は、その夫であった藤田幸信が住職をする道林寺(宗教法人)を同人と共に維持し傍ら幼稚園を経営する等していたが、昭和四六年四月の夫の死の前後ころ、右道林寺等の経営を相続人中被控訴人泰信に委ね、寺本体の土地、建物の所有権を被控訴人泰信に移す等の手続をした。しかし、その後間もなく、たけ子と被控訴人泰信との仲は円満を欠くようになった。ところで、たけ子はかねがね、幸子と被控訴人美智恵については相応の資産を有する者と婚姻したことから遺産を残す必要はないと考えていたが、控訴人ら及び被控訴人巌に対しては十分な財産を与えてこなかったとの認識から、同人らに財産を遺贈することを目的とする遺言をすることを検討するようになった。」

(三) 同六枚目表二行目冒頭から七行目末尾までを次のとおり改め、八行目の「(二)」を「(三)」に、同裏二行目の「(三)」を「(四)」に、六行目の「(四)」を「(五)」に、九行目の「(五)」を「(六)」に、一二行目の「(六)」を「(七)」にそれぞれ改める。

「(二) そこで、たけ子は、昭和五四年六月ころ、被控訴人巌が経営する会社の顧問弁護士で後記の控訴人富子の離婚事件に際しその代理人にもなった村山廣二弁護士(以下「村山弁護士」という。)に相談し、その助言の下に自己所有の土地の固定資産税関係の書類(名寄帳等)を取り寄せ、控訴人ら及び被控訴人巌の希望も聞き、その写しに遺贈したい者の名を記入し、これを東京都内の村山弁護士の事務所に届けた。

村山弁護士は、右書類等を基にワードプロセッサーで自筆証書遺言書の原稿(甲一)を作成し、被控訴人巌を介してたけ子のもとに届けた。なお当時は本件一の(一)、(二)等の土地は分筆前であり、したがって、分筆前の土地(本件一の(一)の土地については「筑波郡谷田部字漆出口弐〇五弐番 畑 五五弐平方メートル」、同(二)の土地については「同所弐〇六四番 畑 五五五平方メートル」)が表示されていた。」

(四) 同六枚目表一二行目の「遺言書の」の次に「コピーに」を、同六枚目裏一行目末尾の次に「そしてたけ子が村山弁護士の右指示に従って遺言書を作成すれば、民法所定の適式な自筆証書遺言書が完成するまでの段階にした。」を、三行目末尾の次に、「その際に居合わせた控訴人善信は、村山弁護士から送られた訂正箇所を指示した文書と本件遺言書を十分に対比し、誤りがないことを確認した。」をそれぞれ加え、同七枚目表二行目の「返答した。」を「返答し、本件遺言書を関係者に示さず、また本訴においても提出しない。」に改める。

2 右認定によると、たけ子は、控訴人ら及び被控訴人巌に対して遺贈をする目的で遺言書を作成することを決意し、弁護士に依頼して原稿(甲一)を作成してもらい、自らもこれを書き写す形で遺言書の原稿を作成し、弁護士の添削等具体的な指示を受けた上、本件遺言書を完成するに至ったこと、一部の相続人は右訂正の場に立ち会い訂正の正確性を確認したことが明らかである。そして、本件においては、たけ子が自ら作成し弁護士による添削を受け、清書すればよいばかりになっている遺言書の草稿(甲二)及び封書の見本(甲三の1、2)が証拠として提出されており、そのとおり作成されていれば本件遺言書はその形式及び内容において有効な遺言書として欠けるところがないものであると認めることができるのである。

本件遺言書は、被控訴人巌によって破棄又は隠匿されたものと認められ既に現存しておらず、検認の手続も経ておらず、また民法は遺言の方式につき厳格な規定を定めるものではあるが、右にみたような遺言書作成の動機、経緯、方法及び完成した遺言書の同一性を確認できる証拠の存在を考慮すると、本件遺言書は、民法の要求する適式な遺言書であったと推認するのが相当である。

そうすると、本件にあたっては適式、有効な遺言書が作成されたものとして本件遺言書につきその効力を認めるのが相当である。

二  争点2について

1  前記明らかに認められる事実等、証拠(甲二三ないし二五、二六の1、2、二七の1、2、二八ないし四二、証人幸子(原審)、同成島悦子(当審)、控訴人富子(原審、当審)、同善信(原審第一回))及び弁論の全趣旨によると以下の事実が認められる。

(一) 控訴人富子は、小学校、中学校の教員をしていた。

(二) 控訴人富子は、昭和四四年四月、中嶋和男(以下「和男」という。)と婚姻したが、和男の暴力等を理由として、昭和五二年五月ころから和男と別居し、長女及び長男を連れてたけ子と同居した。

(三) その後、控訴人富子は、たけ子が控訴人富子に遺贈するつもりとなっていた本件三の(一)の土地上に居宅を新築することになった。そして、昭和五四年一〇月三一日、本件(一)の建物を建てるために旭化成との間で代金一九〇七万円で建物建築工事請負契約を締結した。しかし、右契約書(甲二八)上の注文者はたけ子名義となっており、建築後は保存登記をせず、固定資産評価証明書の所有名義はたけ子名義となっていた。そして、控訴人富子は完成後の本件(一)の建物においてたけ子と同居した。

(四) ところで控訴人富子は、本件(一)の建物建築のころ和男を被告として離婚訴訟を提起しており、代理人となった村山弁護士は、控訴人富子に対し財産分与等の関係があるので本件(一)の建物の所有名義を控訴人富子としないよう指示した。そのため控訴人富子は、前記のとおり契約書の名義をたけ子にする等の手続をしたものである。

なお右離婚訴訟は昭和五六年六月ころ判決があり離婚が成立した。

(五) また控訴人富子は、本件(一)の建物新築に当たり、かねてからの知人である塚本二郎、成島悦子及び幸子、控訴人善信から合計一六〇〇万円をいずれも無利息で借り受け、旭化成への支払等に充てた。

なお旭化成への支払総額は結局一九三六万七二〇〇円となった。

(六) そして控訴人富子は、昭和五八年一月ころ、本件(一)の建物を増築することとし、同月二一日、旭化成と工事代金四六七万円で契約し、同年五月、完成した(本件(二)の建物)。なお右代金は結局四八七万六〇〇〇円となった。

(七) 控訴人富子は、本件(二)の建物を建築する際にも成島悦子から三〇〇万円を無利息で借り受け支払に充てたが、前同様、旭化成との契約に当たってはその契約書(甲三三)の名義人はたけ子であり、保存登記は経由されておらず、固定資産評価証明書の所有名義はたけ子名義となっていた。

(八) 控訴人富子は、以上のようにして借り受けた塚本二郎、成島悦子からの金員を、平成四年一月ころまでには完済した。

2  右認定によると、本件(一)、(二)の建物は、いずれも控訴人富子が主体となって建築したものであり、その工事代金は控訴人富子がすべて資金を調達し、完成後は控訴人富子が自ら居住していることが認められるのであり、これによると、本件(一)、(二)の建物の所有権は当初から控訴人富子に帰属したものと認めるのが相当である。

本件(一)、(二)の建物については、建築工事請負契約書の名義人が控訴人富子ではなくたけ子となっていたこと、保存登記が経由されておらず、固定資産評価証明書の所有名義もたけ子名義となっていたこと等の事実が認められ、また前記のとおり、本件(二)の建物を建築したのは控訴人富子の離婚が成立した後でありしたがって財産分与等の争いに格別の影響は生じなかったはずであること、控訴人富子は前記のとおり本件(一)、(二)の建物の建築のため金員を借り受け、その返済に追われていたはずであるにもかかわらず、証拠(乙二)によると、昭和六〇年七月には別個の建物(アパート)を建築し、自ら保存登記もしている事実が認められること等の事情はあるものの、上記のようにこれを控訴人富子の所有と認めることの妨げとなるものではない。

これに対し、被控訴人らは、本件(一)、(二)の建物を建築したのは契約書どおりたけ子であること、たけ子は前記のとおり宗教法人道林寺、幼稚園を経営する等して相当の資産を有していたことを主張し、証拠(乙五、七、丙一、証人藤田富癸江、被控訴人美智恵本人(いずれも原審)中にはこれに沿う部分があるが、前記のとおり控訴人富子が建築資金を調達した状況が認められる以上、採用できない。

三  以上の事実によると、控訴人善信は本件一の(一)ないし(五)の各土地につき、控訴人富子は本件三の(一)ないし(三)の各土地につき、それぞれ本件遺言書に基づき遺贈を受けたにもかかわらず被控訴人らに持分があるとの前記相続登記が経由されているのであるから、控訴人らは、右遺贈に基づきたけ子の相続人である被控訴人らに対したけ子死亡の日である平成三年一一月二三日遺贈を原因とする各持分移転登記手続を求めることができ(前記のとおり本件遺言書においては遺言執行者として村山弁護士を指定する旨の記載があるが、弁論の全趣旨によると同弁護士はまだ遺言執行者となることを承諾しておらず、本件にあってはまだ遺言執行者がいない状態であることが認められるから、控訴人らは被控訴人らに対しかかる本訴を提起することが許されるものと解する。なお控訴人らは本訴において前記各土地につき真正な登記名義の回復を原因とする持分移転登記手続を請求しているが、右請求は前記のような遺贈を原因とする持分移転登記手続を請求する趣旨も含むものと解される。)、また控訴人富子は本件(一)、(二)の建物につき、所有権を争う被控訴人らとの間で所有権確認を求めることができる。

よって原判決は失当であって本件各控訴はいずれも理由があるから原判決を取り消し、控訴人らの各請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 岡久幸治 裁判官 北澤章功)

別紙遺言目録〈省略〉

別紙物件目録〈省略〉

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